東京家庭裁判所 昭和40年(家イ)4214号 審判 1966年2月14日
申立人 入江俊子(仮名)
相手方 宮本和男(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、慰謝料として金一五万円を支払うこととし、内金三万円は昭和四一年三月一〇日限り、残金一二万円は昭和四一年三月より翌四二年二月まで一ヵ月金一万円宛を毎月末日限り、いずれも当裁判所に寄託して支払わなければならない。
相手方が前項の分割金を二回以上遅滞したときは、期限の利益を失い、残金全部につき請求されても異議がないものとする。
調停費用は各自の負担とする。
理由
申立人は、「相手方は申立人に対し、婚約不履行にもとづく慰謝料として金五〇万円を支払うこと」との調停を求め、その申立の実情として、申立人と相手方は昭和三九年一二月に知り合い、その後交際を続けているうち、相手方より結婚の申込みを受けたが、まだ交際も浅く、結婚の意思もなかつたところ、昭和四〇年一月六日相手方より食事に誘われ、カクテルコーナーでコークハイ二~三杯を飲んだところ前後不覚となり、気が付いたときには部屋の中に寝かされていた。それから結婚の約束をし、四月に二人で申立人の両親の所へ行く約束をした。ところが同年二月半ばに相手方に電話をした際、上役の人が電話口に出、相手方に妻のいることを聞かされておどろき、改めてその上役の人に逢つて今までの関係を話したところ、すぐ病院へ連れていかれ、検査を受けたところ陽性だというので、同年三月一日に中絶手術をした。それ以来相手方とは全然逢つていないが、申立人は手術の経過が悪く、同年六月まで病院通いを続け、またそれ以後も生理痛が強く、階段の上り下りにもお腹にひびいて苦しく、美容師という職業柄立ち通しでやらなければならないのに、疲れ易くて長立ちできない状態である旨述べた。
当裁判所は、昭和四〇年九月二八日以来五回にわたつて調停委員会を開いたが、相手方は再三の呼出や調査官を通じての出頭勧告にも応せず、僅かに第三回の期日に一回出頭したのみである。したがつて本来ならば、不出頭の制裁として過料の処分にするべきであるが、それは必ずしも当事者双方の益するところとはならないので、この際家事審判法第二四条に従い、審判によつて当事者間の問題を解決することとする。
そこで慰謝料の額につき案ずるに、相手方は上記第三回期日に、慰謝料として金一〇万円(頭金三万円、残金は一ヵ月金一万円宛の分割払)を支払う旨述べているが、上記のごとく申立人は相手方との交渉によつてその貞操を侵害され、しかも妊娠中絶という肉体的苦痛を受け(中絶費用は相手方が負担しているが)、なおその後遺症としていまだに苦しんでいる状態にあることがうかがわれるので、上記一〇万円では到底申立人の精神的苦痛をいやすことは困難であると思われる。したがつて相手方としてはもつと高額の金員を支出すべきであるが、相手方の家庭事情、収入その他については、現在の段階では詳しく知り得ないので、一応相手方の提示する案に若干変更を加え、その分割の期間を延長することによつて、総額金十五万円を支払わせることとする。
よつて、調停委員の意見を聴いた上主文のとおり審判する。
(家事審判官 日野原昌)